デジタル化やDX推進による需要の急拡大や、若手IT人材の育成困難などが原因により、2030年までに最大約79万人ものIT人材が不足すると言われています。特にプロジェクトマネージャーやデータサイエンティストなどは、今後ますます需要が拡大すると見込まれています。
本記事では、IT業界の人手不足の現状やエンジニア不足の原因、企業が取るべき対策について解説します。
IT業界の人手不足は本当か?現状とデータ
IT業界は深刻な人手不足が続いており、今後さらに拡大するといわれています。では実際にどのくらい人材が不足しており、どの分野で特に人材が足りていないのでしょうか。ここでは、最新データをもとにIT業界の人手不足の現状を解説します。
2030年にIT人材は最大79万人不足
経済産業省が公表した「IT人材需給に関する調査報告書」によると、2030年に日本では最低でも約16万人、最大で約79万人ものIT人材が不足すると予測されています。
ITニーズの拡大により、IT関連の市場規模は今後も成長が見込まれるうえに、少子化による労働人口の減少が重なり、人材不足は加速する一方です。
出典:経済産業省|IT 人材需給に関する調査
IT人材不足が特に深刻な分野
IT人材の不足は加速していますが、特に深刻な分野はAI・IoT・ビッグデータ・クラウド、サイバーセキュリティなど最先端技術を扱う分野です。高度な専門性を求められるため、需要が急増している一方で供給が限られています。その結果、企業間の人材獲得競争が激化し、今後も需給ギャップが拡大すると予測されています。
「IT業界の人手不足は嘘」と言われる理由
「IT業界の人手不足は嘘」と言われるのは、業界全体で人が足りないわけではなく、人手が足りている分野もあるためです。例えば、従来型のシステム開発や運用を担うエンジニア、または未経験から参入した人材は比較的多く、需要は以前より減少しています。
一方で、AIやクラウド、データ分析といった先端技術を扱える人材は依然として不足しており、企業間での獲得競争が続いています。時代の変化とともに求められるスキルも高度化しているのが現状です。
IT人材が不足する主な原因
IT人材が不足する主な原因について紹介します。
デジタル化・DX推進による需要の急拡大
多くの企業が業務の効率化やデータ活用、オンラインサービスの強化など、デジタル化やDXの推進に力を入れています。DXの導入は、単に作業を効率化するだけでなく、データに基づいた迅速な意思決定や、部署間のコミュニケーションを円滑にする効果もあります。
また、リモートワークやフレックスタイム制など多様な働き方を支える基盤にもなり、従業員のワークライフバランスを保ちながら生産性を高めるうえで欠かせない取り組みです。
最新技術に対応できる人材の不足
最新技術は進歩が速く、専門的な知識や経験を持つエンジニアが限られているのが現状です。従来のIT技術には対応できても、AI・クラウド・データ分析などの新しい分野に対応できる人材の育成が追いついていません。
企業が求めるスキルレベルが年々高まっており、採用競争が一層激しくなっています。その結果、先端分野に強い人材ほど都市部や大企業に集中し、地方や中小企業では慢性的な人材不足が続いているのが実情です。
少子化による労働人口減少
デジタル庁の推計によると、日本国内の総人口は2070年には2025年現在の約7割に減少すると見込まれています。生産年齢人口(15〜64歳)は2024年の約7,373万人から2050年には約5,540万人へと約25%減少する見通しです。労働人口の減少はIT業界にも人手不足を及ぼしています。
参考:デジタル社会の実現に向けた重点計画
IT人材の定着の難しさ
開発現場だけでなく、社内ITを支える部門でも人材不足は深刻です。一般社団法人ひとり情シス協会の調査によると、情シス要員が一人以下の企業は中小企業で88%、中堅企業で38%に上ると報告されています。こうした一人情シスの環境では、日常業務が属人化しやすく、教育やノウハウ共有を行う余裕がほとんどありません。そのため、若手IT人材を育てる仕組みが機能せず、定着率の低下にもつながっています。
レガシーシステム対応の増加
レガシーシステムとは、過去の技術や古い仕組みを基盤に構築された既存のシステムを指します。これらのシステムは長年にわたり改修や機能追加を重ねてきた結果、複雑化・老朽化が進み、最新のデジタル技術との連携が難しくなっているのが現状です。
経済産業省が示す「2025年の壁」では、老朽化したシステムを放置するとDX推進が遅れ、結果として業務効率の低下やコスト増加、競争力の低下につながると指摘されています。そのため、今後は古いシステムを維持するのではなく、クラウド化やモダナイゼーションを通じた段階的な刷新が求められます。
IT人材不足が企業に与える影響
IT人材不足が企業に与える影響を紹介します。
開発運用プロジェクトの遅延・停滞
IT人材が不足すると、最も顕著に影響が出るのが開発や運用プロジェクトの進行です。必要なスキルを持つエンジニアが確保できない場合、作業が滞り、納期の遅延やスケジュールの再調整が頻発します。
また、他のメンバーで代用したり、少数の担当者に負担が集中したりすると、成果物の品質が不安定になり、顧客からの信頼を失うリスクが高まります。
競争力の低下・イノベーションの遅れ
新しいサービスやシステムを開発できる人材が不足すると、市場の変化に柔軟に対応できず、競合企業に後れを取るリスクが高まります。開発リソースが限られることで新しいアイデアを試す機会が減ってしまうため、イノベーション推進のスピードも鈍化しがちになるでしょう。
既存社員への負担増加と離職リスク
IT人材が不足すると、限られた人員に業務が集中し、既存社員の負担が大きくなります。長時間労働や休日対応が常態化しやすく、心身の疲労が蓄積しやすい環境になりがちです。その結果、モチベーションの低下やメンタル不調を招き、離職につながるリスクが高まります。
情報セキュリティリスクの増大
IT技術の発展とともに、高度なサイバー攻撃も増加傾向にあります。IT人材が不足していると、脆弱性への対応や不正アクセスの検知が遅れやすく、外部からの攻撃に十分な防御策を取れないリスクが高まります。
IT人材不足を解消するための企業の取り組み
IT人材不足を解消するために、企業が実際に取り組むべき主な施策を紹介します。
社内教育・リスキリングの強化
IT人材不足を解消するうえで、社内教育やリスキリング(学び直し)は有効な取り組みの一つです。既存社員であれば、自社の業務内容や文化を理解しているため、新たに採用するよりもスキル習得を効率的に進められます。社員にとっても、自身のスキルアップやキャリア形成につながるのがメリットです。
社内教育の内容としては、IT関連資格の取得支援や専門性を高める社内研修、オンラインで学べるeラーニングの導入などが挙げられます。これらを体系的に実施することで、社員が新しい技術に触れる機会を増やし、企業全体のITスキルを底上げできます。
業務の効率化・自動化
採用したIT人材が早期離職しないためには、業務の効率化と自動化を進め、働きやすい環境を整えることが重要です。業務の進め方が非効率だと一人ひとりの負担が増え、残業やストレスが常態化しやすくなります。特に、新規採用したエンジニアが過剰な業務量や煩雑な作業に追われると、モチベーションが下がり、早期退職につながるリスクが高まります。
こうした課題を防ぐために、AIツールやプロジェクト管理ツールなどを導入して業務を自動化することが大切です。作業効率が上がれば、チーム全体の生産性が向上するだけなく、スキルアップや新しい技術の習得にもつながります。
報酬・キャリアパスの見直し
IT業界の中でも需要の高い分野では、エンジニアの市場価値が上昇しており、スキルに見合った報酬体系を整備しなければ、優秀な人材が他社へ流出するリスクが高まります。
また、IT人材の育成を強化するには、スキルアップを促すだけでなく、将来のキャリアパスを明確に示すことが重要です。スペシャリストやマネジメントなど、複数の成長ルートを提示すれば、社員が自分のキャリアを具体的に描きやすくなります。キャリアの将来像が見えることで、モチベーションの維持や離職防止にもつながり、長期的に活躍できる人材を育てる基盤を築けます。
働き方・労働環境の改善
いくらスキルや報酬が充実していても、長時間労働や過度な負担が続けば、優秀な人材ほど離れていきます。そのため、リモートワークやフレックスタイム制度などを導入し、働き方に柔軟性を持たせることが重要です。柔軟な勤務制度を整えることで、社員のワークライフバランスを確保することで、満足度や生産性の向上にもつながります。
働き方・労働環境の改善は既存社員の離職防止だけでなく、企業イメージの向上にも直結するため、新規採用の強化になるでしょう。
採用活動の強化
IT人材不足を根本的に解消するためには、採用活動の強化が欠かせません。AIやクラウドコンピューティング、サイバーセキュリティなど競争の激しい分野では、優秀な人材を確保するために高い報酬を提示する企業が増えています。競合に劣らない給与水準や福利厚生を整備すれば、応募者の関心を引きやすくなり、採用率の向上につながります。
また、採用方法を多様化することもポイントです。転職サイトだけでなく、リファラル採用やヘッドハンティング、転職エージェントを活用することで優秀な人材と出会う機会を広げられます。
関連記事:ヘッドハンティングとは?基礎知識や成功のコツ、引き抜きとの違いを解説
外部人材・アウトソーシングの活用
IT人材の採用や自社での育成が難しい場合は、外部人材やアウトソーシングを活用することも有効です。フリーランスエンジニアや業務委託契約、派遣社員などを登用すれば、育成コストを抑えながら即戦力を確保できます。
また、業務の一部を専門企業へアウトソーシングすることで、社内の人員を必要な業務に専念させることが可能です。ただし、外部人材やアウトソーシングの活用はあくまで一時的な改善策であって、根本的な解決にはつながらないため、長期的な対策も検討する必要があります。
オフショア開発の導入
オフショア開発とは、海外の開発会社やエンジニアに業務を委託してシステムやアプリケーションを開発する手法です。国内での人材確保が難しい中、海外企業に外注することでコスト削減やリソース不足の改善が期待できます。また、自社にはないノウハウや専門スキルを取り入れられるほか、グローバル対応を強化できる点も大きなメリットです。
一方で、オフショア開発には言語や文化の違い、品質管理、情報セキュリティなどの課題もありますので、リスクを検討する必要があります。
優秀なIT人材を確保するための採用戦略
IT人材の獲得競争が激化するなかで、企業が求めるスキルを持つ人材を確保するには、従来の採用手法だけでは不十分です。優秀なIT人材を確保するための具体的な採用戦略を紹介します。
自社に必要な人材像とスキルの明確化
優秀なIT人材を確保するためには、まず自社にどのような人材が必要なのかを明確にすることが欠かせません。事業戦略やプロジェクトの内容に応じて、AI・クラウド・データ分析・セキュリティなどなどのスキルセットや担当ポジション、人物像を具体的に定義します。ミスマッチを抑えることで採用活動の精度を高め、入社後の定着率向上にもつながります。
即戦力人材を採用
即戦力となる経験豊富な人材を採用することで、入社後すぐにプロジェクトを推進できるため、業務スピードの向上や人材育成コストの削減にもつながります。特に、AIやクラウド、マネジメントなど高度なスキルを求められるポジションでは、短期間で成果を上げられる人材が必要です。
ただし、即戦力人材は市場での競争率が非常に高いため、報酬水準を業界水準に合わせたり、リモートワークや副業を許可したりするなど、好条件を提示することも有効です。
異業種からの採用・育成
慢性的な人材不足が続くIT業界では、異業種出身者を将来的な可能性を見込んでポテンシャル採用し、社内教育や研修を通じて育成する企業が増えています。多様なバックグラウンドを持つ人材を受け入れることで、組織に新しい視点やイノベーションが生まれやすくなり、企業全体の競争力向上にもつながります。
IT業界に強い人材紹介会社の活用
IT業界のグローバル人材を迅速に採用
自社だけで求人広告やリファラル採用を行う場合、応募が集まりにくかったり、採用活動が長期化したりするリスクがあります。IT分野に強い紹介会社を活用すれば、採用市場の動向を把握し、自社が求める人材像に合った候補者をスピーディーに紹介してもらえます。また、面接調整や候補者との条件交渉といった採用プロセスを効率化でき、採用担当者の負担を軽減できます。
関連記事:人材紹介とは?仕組みや手数料、採用の流れと注意点を詳しく解説
今後需要が高まるIT職種
デジタル化の加速やAI技術の進化により、専門性の高いIT分野の人材ニーズが急速に拡大しています。ロバート・ハーフの「年収ガイド」では、今後需要が高まるIT職種やスキルなどを詳しく紹介しています。最新の採用市場の動向も解説されていますので、参考にしてください。
DevOps/SREエンジニア
DevOps・SREエンジニアは、いずれも開発と運用を連携させることでシステムの安定稼働を支える重要なポジションです。DevOps(デブオプス)は、システムの継続的な改善や自動化を重視し、SREエンジニアはシステムの信頼性を高めるという対外的なことに重点を置きます。
機械学習/NLP/AIエンジニア
機械学習・NLP・AIエンジニアは、学習モデルの設計・構築や言語データの解析など、AI技術の開発・実装を担うポジションです。AIエンジニアが企画・開発・運用などを総合的に担当するのに対し、機械学習エンジニアやNLPエンジニアは、特定のアルゴリズムや言語処理モデルを専門的に扱う立場にあります。画像認識や音声認識、チャットボットなど、AIを活用する場面は多く、企業のDX推進には欠かせない存在です。
IT分野で採用が活発な業種
IT分野では多くの業界でIT人材の採用が活発化しています。その中でも、ITベンダーや自動車・モビリティ、Eコマース、フィンテックなどの分野は、特に採用が活発です。例えば、自動車・モビリティ業界では、自動運転やコネクテッドカーなどの開発が進んでおり、ソフトウェア開発やAI制御などに精通したエンジニアの採用が活発です。
また、Eコマース業界では、コロナ禍による巣ごもり需要を背景にオンライン取引が急増し、業界全体が急成長しました。その結果、ECサイトの構築や決済システムの開発、物流の自動化などを担うエンジニアの採用が活発になっています。
ロバート・ハーフのIT人材紹介サービス
採用のご相談はこちら
ロバート・ハーフは、グローバルで75年以上の実績を持つ人材紹介会社であり、IT・テクノロジー分野の採用支援を行っています。ロバート・ハーフの特徴を解説します。
IT・テクノロジー分野に強い専門チーム
ロバート・ハーフでは、IT業界に精通した専属リクルーターが在籍し、即戦力となるエンジニアやテクノロジー人材をスピーディーに紹介します。人材となる候補者を技術テストや実務経験などの技術力だけでなく、企業文化との相性からも評価し、ミスマッチを防ぎます。
特に取引実績が多い業界は、以下の通りです。
自動車・モビリティ
Eコマース
テクノロジー/ITサービス
コンサルティング
フィンテック
オンラインプラットフォーム
保険
ラグジュアリー・消費財
豊富な人材ネットワークと厳選された候補者
ロバート・ハーフは、75年以上の実績をもとに築いた独自の人材ネットワークを活かし、幅広いITエンジニアとつながりを持っています。一般的な転職サイトには掲載されない潜在層の人材にも直接アプローチできることが強みです。スカウト型の採用支援を通じて、専門スキルや経験を持つ厳選された候補者を最適なタイミングで紹介します。グローバル対応が可能なバイリンガル人材の紹介にも力を入れています。
正社員から契約社員・派遣社員まで幅広く提案可能
ロバート・ハーフでは、正社員だけでなく、プロジェクト単位や期間限定の契約社員、プロフェッショナル人材の派遣・業務委託サービスを提供しています。短期・長期を問わず、企業の業務量やプロジェクトの進行状況に合わせて、最適な人材を柔軟に提案します。繁忙期の急なリソース不足にも迅速に対応できる点が強みです。
採用後の定着まで見据えたサポート
ロバート・ハーフでは、採用後の定着までを見据えた包括的なサポートを行っています。新たに採用した社員が職場環境や業務にスムーズに慣れ、チームの一員として活躍できるようにサポートするオンボーディングが一例です。
IT業界はなぜ人手不足なのか?
IT業界で人手不足が続く主な原因は、デジタル化やDX推進による需要の急拡大や、少子化による労働人口の減少などです。特に、AI・クラウド・データ分析などの先端技術に対応できる人材が不足しています。一方で、従来型のシステム開発や保守を担うエンジニアの需要は減少傾向にあります。
エンジニア不足・技術者不足は今後も続く?
エンジニア不足は今後も中長期的に続くと見込まれています。経済産業省の試算によると、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると予測されています。特に、AI・データ分析・セキュリティ分野では技術革新が加速しており、企業間の人材獲得競争は一層激しくなる見通しです。
この流れを受けて、単なる採用強化だけでなく、社員の教育やリスキリング(学び直し)によるスキル底上げが重要視されています。
IT人材を採用する際に企業が押さえるべきポイントは?
優秀なIT人材は複数の企業から同時にオファーを受けることが多く、採用プロセスのスピードが採用成功の鍵となります。面接日程の調整に時間がかかったり、選考基準が不明確だったりすると、他社に先を越されるケースも少なくありません。
そのため、事前に求めるスキルや人物像、業務内容を明確に定義し、評価基準を共有しておくことが重要です。選考フローをシンプルに設計し、面接段階での技術評価やカルチャーフィットの確認を効率化すれば、候補者への印象も良くなります。
まとめ
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2030年には、IT人材が最大で約79万人不足すると試算されています。こうした人材不足を解消するには、社内教育やリスキリング・採用活動の強化、外部人材やアウトソーシングの活用などの取り組みが欠かせません。人材が不足した状態が続けば、企業の競争力低下や既存社員への負担増加といったリスクが高まります。
ロバート・ハーフは、IT・テクノロジー分野の採用支援を行っています。豊富な転職支援実績から、企業の採用課題に応じた柔軟な提案が可能です。採用にお困りの場合は、ぜひご相談ください。
■アドバイザー
竹中オスカー|エンタープライズテクノロジー&コンサルティング プラクティスディレクター
SaaS/クラウド、テクノロジーコンサルティング、ビジネストランスフォーメーション領域において、10年以上にわたりミドル~エグゼクティブ層の転職支援を行う。スタートアップから大手企業まで幅広く対応し、特にSaaS業界の採用支援に豊富な実績を持つ。