現在、アジャイル関連のスキルを持つITのプロを求める企業がこれまでになく増えています。「ハイブリッド型アプローチ」によるアジャイル手法ならすでに経験がある、という方もいるでしょう。しかしさらに深い知識を身につけ、自身のキャリアに生かそうと考えるなら、アジャイル手法の中でも最も広く利用されている方法を習得することがおすすめです。ビジネスをより深く理解し、自身のチャンスを広げることにつながるでしょう。

世の中で最も広く用いられているアジャイル手法は「スクラム開発」です。The 2015 State of Scrum Report(英語)(2015年スクラム情勢報告書)では回答者の71パーセントが用いているとの結果が出ています。あまりに多くの場所で用いられているため、世界のあちこちではこれが「アジャイル手法の総称」であるという間違った認識まで生じています。今こそ、そんなスクラム開発の混乱を正し、明確な理解を深めましょう。

スクラム開発手法とは?

発案者による正式な定義は「名詞:最大限の価値をもつ製品を生産的および創造的に提供しながら、複雑かつ適応性のある課題に対処するためのフレームワーク」となっています。

限定的な知識しかないことも多い初期段階において製品またはプロジェクトの範囲を限定する代わりに、物事が進んでいく過程全体において、十分な情報に基づく得失評価を経て意思決定を可能にするのがスクラムです。これによりソフトウエア開発における時間の無駄を省き、費用を削減できます。

簡単に言えば、この手法は企業がその業務をいかにうまく進めているか、その製品がどの程度価値があるものかを映す鏡です。上手く活用することで、企業の業務遂行と成果物の双方において自己修正かつ自己最適化のメカニズムとして働きます。

アジャイルとの違い

単純な例えで説明すると、スクラムが車なら、アジャイルは乗り物です。車が乗り物の一種であるのと同じように、スクラムとは数あるアジャイル手法の中のひとつです。コンセプトの上ではこの2つはまったく別のものです。乗り物には車の他にもいろいろあるように、スクラムに加え、アジャイル手法にはその他のフレームワークも存在します。
アジャイルになじみがある方には、この手法には一般的な価値と原理があることもご存知でしょう。しかしそうした価値から具体的に一揃いのRole(役割)、Artifact(成果物)、Event(イベント/会議)を定めるのがスクラムの手法です。スクラムを導入するScrumMaster(スクラムマスター)として働くことは、企業にアジャイル手法の価値と原理を成立させる最も効果的かつ実質的な方法を提供することであり、将来性のある従業員に望まれるスキルとしてこれがもてはやされる理由はそこにあります。

ScrumMasterになる

ソフトウエア開発者としての経験がある方は、間違いなくソフトウエアコードのデバッグを行ったこともあるはずです。ScrumMasterの役割も似たようなものだと考えられます。ただし、対象は事業です。ScrumMasterとしてデバッグ(問題修正)を行うのはソフトウエアではなくソフトウエアを制作する組織です。キャリア上、組織内ではそうしたスキルが高く評価されます。
ScrumMasterになれば、自身の能力について次の点を伸ばすことができます。

  • 手順を最適化するスキル
  • 対人スキル
  • リーダーシップのスキル
  • グループをまとめるスキル
  • 技術的なリーダーシップのスキル
  • 問題解決スキル

事業において効果的にスクラムを用いるには、優れたScrumMasterとして押さえておくべき点がいくつかあります。以下を参考に、事業にアジャイル手法を採用して組織や人々を導く「変化をもたらす媒体」になりましょう。
ScrumMasterとは次のような存在です。

  1. チームビルダーとして多機能チーム内の協力を促し、一丸となって活躍できるようにします。
  2. 質の高い仕事をスムーズに完了させるため、チーム内に新しい技術を導入する支援を行います。
  3. コーチとして事業発展を促します。これは最大限の金銭的利益をあげるよう、十分な情報に基づく得失評価を経て決断を下すことを意味します。
  4. 参加型の集団意思決定、メンタリング、コーチングをスムーズに実現すべく問題の多い「命令と管理」方式の経営体制と決別します。従来の管理職と異なり、ScrumMasterは現状維持の範囲内で仕事をするだけでなく、現状をより良くする方向にチームを導きます。

需要の高まり

優れたScrumMasterの需要が急速に高まっています。多くの事業では従来のプロジェクトマネージャーや反復型管理を行うマネージャー、チームリーダーなどの代わりにScrumMasterを採用し始めており、必然的に需要が増えることから、IT専門職者として素晴らしいチャンスに恵まれます。

ScrumMasterがキャリアに与える影響

ScrumMasterの資格を持つIT専門職者は報酬が高いだけでなく、実り多い仕事人生を送れる可能性も高い傾向にあります。前述の『2015 State of Scrum Report』では回答者の87パーセントがスクラム開発により生活の質および仕事の生産性が向上したと答えました。ScrumMasterは、こうした点および組織の前向きな仕事文化の構築に最も大きく貢献するでしょう。

また、尊敬に値するチームのリーダーとして、ScrumMasterは職場の不要なミーティング数を最低限に抑える能力を有します(実際にこれも役割のひとつです)。ScrumMasterのおかげでこれまでの退屈なミーティングが生産性のあがる興味深いワークショップになったと感謝されることも少なくありません。

さらに、ScrumMasterはサーバント型のリーダーだと思われることも少なくありません。これは、部下のために動くことでその実力を最大限に発揮させるように導くリーダーの草分けです。リーダーシップの種類としてのサーバント型リーダーは本来、企業取締役のためのものです。そのようなスキルを身につけているということは、たとえ上級職者でなくともその人の経歴において全面的に大きなプラスになることは間違いありません。

ScrumMasterになるには?

ScrumMasterに何が期待されるかを知るには、集中的な研修講座を修了することが一番の近道です。講座の種類はさまざまですが、最も人気が高いのはCertified ScrumMaster®(CSM/スクラムマスター認定講座)の講座です。アジャイル手法の知識があり、スクラム方式を用いて業務プロセスを向上させることに関心があれば誰でも受講可能です。オーストラリアでは、同講座のScrumMaster認定はあらゆるIT資格の中でも最も高く評価されています。

大変人気の高い別の講座としてはCertified Scrum Product Owner® (CSPO/認定プロダクトオーナー研修)があります。こちらはプロダクトオーナー、プロダクトオーナーのコーチングを行う人、要求の明確化を補佐する人の視点からスクラムを学ぶ講座です。

CMS講座はさらなる学びを追求しつつ、ScrumMasterという役割に飛び込むきっかけを作ってくれます。CSMやCSPOの講座から得られる洞察は、オンライン学習やアジャイルに深く関連する書籍から得られるそれを大きく上回ります。

最も優れたスクラム認定評価とは?

スクラム認定において最も人気の高い認定評価機関は、Scrum Alliance(スクラムアライアンス)です。同機関は世界最大のアジャイルメンバーシップ団体であり、2003年から運営されています。

同団体が他と異なるのは、非営利団体であることとソフトウエア開発にだけ焦点を当てているのではないという点です。信用できる認証団体をきちんと見極めることも大切です。スクラムの手法は必要最低限のフレームワークであるべきですが、そのような信念がなく、発案者によって書かれた公式ガイドを用いずに300ページを超える分厚い自己流カリキュラムをもとにしているような認証評価機関にはくれぐれも注意しましょう。

スクラムアライアンス公認のトレーニングはCertified Scrum Trainer(CST/認定スクラムトレーナー)®が主導します。トレーナーは、世界最高レベルのアジャイル認定評価を受けているため、そのハードルはその他のどのアジャイル認定評価よりも高いものだといえます。CSTには幅広いスクラムの役割における長年の経験が求められるほか、社会人教育に対する高いスキルも必要です。

アジャイルからスクラムへの移行について、またはITおよび技術の職についてより詳しい情報をお探しの場合は、求人検索ページをご覧ください。
『ローワン・バニング(Rowan Bunning)はオーストラリア出身。スクラム手法の第一人者であり、2008年よりCertified Scrum Trainer®(認証スクラムトレーナー)およびアジャイルコーチとして活躍しています。コーチとしては、スタートアップ企業からグローバル規模で展開する有名企業にいたるまで、行政をはじめ金融、メディア、TVゲーム、食品、ビル警備、データ保護、不動産、コレクション管理、コンテンツ管理といったさまざまな分野で職能横断型チームビルディング、マネジメントコンサルティング、企業文化改革などにおいて速やかなアジャイル移行を実施してきた経験があります。』