私たちの潜在意識が持つ最も厄介な特徴のひとつに「確証バイアス」と呼ばれるものがあります。これは、あらかじめ持っていた考え方やものの見方に合うような情報を無意識に探し求める傾向のことです。人は誰でも「新しい意見、議論、考え方を進んで受け入れる、オープンな人間」でありたいという理想を抱きつつも、自分でも気づかないうちに確証バイアスによる影響を受けています。その証拠は日々の生活のいたるところで見られます。例えばソーシャルメディアの「フィルターバブル」などもそのひとつです。人々には、既存の考え方や自身の信念に合う情報により深く関与し、そうした情報をより多く共有する傾向があります。その傾向を利用して見たくないものを遮断し、見たいものしか見えないようにすることが、数多くの議論を呼んでいます。そして残念なことに、こうしたバイアスは人材採用の過程にも同様に当てはまります。
性別や性的志向、人種、社会・経済的背景を理由に候補者を不採用にしてしまうことがあり得る」ということを自ら進んで認める人はおそらく誰もいませんが、トレド大学の研究者によって、面接開始から10秒以内の会話をもとに審査結果の予想がつくことが明らかになりました。残りの面接時間は、候補者の能力を誠実に審査するよりも、最初に得た先入観を無意識に確定するために費やされるのだといいます。
一般的に採用バイアスとは採用担当者本人も気づかないうちに起こります。しかしそのバイアスが引き起こす可能性がある悪影響は現実のものであり、数も決して少なくありません。差別禁止法および企業方針に反するほか、多様性促進の目標にも沿わない可能性があります。不採用者からの告発が法的措置や企業評判を損なうことにつながるかもしれません。たとえそこまでには発展せずとも、誤った理由により資質・能力共に高い候補者と逃したとあっては、企業利益に直接的な影響を与えることにもなりかねません。マッキンゼー・アンド・カンパニー社の調査(英語)によれば、企業の民族多様性についてその高さが上位4分の1に入る企業は下位4分の1の企業と比べて経営状況が好ましい可能性が35%も高いという結果が出ています。同様に性別の多様性が高い企業では15%です。
なかにはそうした先入観の影響をまったく受けないという人もいるかもしれませんが、多くの人々がひとつふたつは心に深く根差した偏見を持っているものです。そうした偏見はほんのささいなものでも、知らず知らずのうちに採用過程に影響を及ぼしている場合があります。
決して誰かを非難しているのではありません。人間は過ちを犯すものであり、特にそうした過ちは気が付かないうちに起きてしまいます。しかしながら採用を公平かつ倫理的に行い、さらに優れた人材を言葉のなまりや服といったその人に関係のない理由で採用し損ねることがないように、人間が犯しやすい間違いをきちんと認識しておくことが非常に大切です。従ってどの企業においても採用過程をできる限り公平に進められるよう、「確証バイアス」の問題に対処すべきなのです。
こうした対処方法は、多様性促進および反差別について従業員の考え方よりも行動を規制する既存の企業方針とは異なっているべきです。無意識に行われるという性質上、採用バイアスと差別は別のものであり、以下のような異なる取り組みを必要とします。
1. 募集広告での職務内容の書き方を見直す
良くも悪くも言葉には力があります。知らず知らずのうちに候補者の応募意欲をそぐことのないように気を付けましょう。ある調査によると性別を感じさせるような言葉遣い(無意識に男性的または女性的と思わせるようなもの)は、候補者の応募意欲を減退させることがわかっています。募集広告での言葉遣いや表現を注意深く検討することが大切です。
2. ブラインド採用を行う
現在、履歴書・経歴書の記載内容を、募集職務に関連する内容のみに留めるという新しい方法が増えつつあります。採用過程において名前や住所、婚姻状況などの情報は必要がないばかりか、無意識のうちに採用担当者や面接官に先入観をもたせる引き金となります。
3. 面接を構造化する
通常、面接は自由な会話を基本に行われますが、これが先入観の発生と拡大を助長するもとになります。すべての候補者に共通する面接の質問を用意して、全員に公平な審査の場を設けつつ、回答内容だけに基づく審査を容易にする方法を検討してみましょう。
4. 技能テストを実施する
創造性を求める職種において、候補者のポートフォリオを見ることなく採用したり、技術専門職の募集で候補者の資格を確認せずに採用したりすることはあり得ません。それならば、その他の職種でも面接時に候補者の能力を測るテストを実施しても良いはずです。技能テストですべてがわかるわけではありませんが、試験の環境下では候補者によって成果に違いが出やすく、採用担当者は客観的に審査せざる負えなくなります。
最も大切なことは、「無意識の先入観にとらわれすぎないこと」です。誰かの気分を害することばかりを恐れていては大切な目的を果たせないだけでなく、面接官自身を苦しい立場に追い込むことになりかねません。その代わり、間をかけて選考過程を検討しておけば、全候補者に公平な選考機会を与えることができるという自信と安心感を持って採用に臨むことができるでしょう。